そのリスキリング商材、本当に大丈夫? 増加する副業詐欺の手口とは
副業詐欺や投資詐欺といった詐欺が増加しているのをご存知だろうか? 甘いささやき広告に乗せられて、消費者金融の利用を促し、その結果、多額な借金に陥ってしまうケースが、いま急増している。それを受けて多重債務相談で日本最大手の「司法書士法人 杉山事務所」杉山一穂代表が警告を促している。 なぜ今、詐欺が増えているのか? その手口とは? そして、理解不能なノウハウを羅列した釣り広告に乗せられた結果、騙されないようにする為には? 多重債務相談で、東京、大阪、名古屋、福岡、広島、岡山、仙台、札幌に事務所を構え、日本全国からの相談を受ける「司法書士法人 杉山事務所」の杉山一穂代表は、「週刊ダイヤモンド」の「消費者金融が最も恐れる司法書士ランキング」で1位に選ばれた敏腕司法書士。 債務整理相談に於いて、全国最大手である同事務所の相談割合の統計では、直近1年で約10%近くが「詐欺・消費者被害」に関する案件と増加の一途を辿っているという。これは、令和元年12月の7%に対して、昨年の令和4年12月には、9%と、じわじわと増え続けていき、今後も増えていくと予想される。 そこで、杉山代表と同事務所・東京事務所代表の小林拓矢に、詐欺に関するリアルな状況について伺った。 ──ここ5年の間で副業詐欺が増えている背景をお聞かせいただけますか? 杉山一穂(以下、杉山):当事務所は、17年前から主に過払い金の回収を行っていたのですが、2018年の副業解禁に伴って、ここ5年の間で副業詐欺に関するご相談が増加してきました。国が資産形成を促している「老後2000万円問題」や、副業を許容する企業が増えてきたこと。 さらに、コロナ禍で「巣篭もり傾向のライフスタイル」に伴って、「生活費が足りない」「労力を使わずに収入を得たい」という気持ちが生まれたのが要因にあるかと思います。それらを巧みに利用した犯罪が、副業詐欺や投資詐欺に繋がっていき、この5年間で急速に増えていったとみています。
ファースト・コンタクトは、何気ないSNSや広告から
「副業詐欺」と聞いてもピンとこない人も多い。自分だけは関係ないと思っている人がほとんどだと思うが、巧妙な手口を使って被害に遭ってしまうケースのファースト・コンタクトは、副業を自分自身で探した能動型が1割。それ以外の9割が受動型だという、興味深いデータが出ている。 ──具体的には、どのようなルートから被害に遭ってしまうのでしょうか? 小林拓矢(以下、小林):Facebookやインスタグラムを通して「友達になろう」というDMが届いたり、YouTubeを見ていて「スマホをタップするだけで日給10万円を目指す」という広告のように、SNSを通して自分でも気がつかないうちに詐欺のターゲットになってしまうケースが大半を占めています。 警戒されないように、相手は、最初から詐欺話を持ち掛けてきません。「私はシングルマザーで~」「自分は投資の先生の下で投資の勉強をしている」といった、日常会話的な身の上話から入ってきます。あるいは、広告をクリックしたらLINEに繋がったりといったように、実に巧妙な手口を使ってくるので、詐欺だという自覚症状がないまま、被害に遭っているケースがほとんどです。 初回は、わずか数万円投資すると、いくらか利益が乗った状態で投資した資金が返ってくるので、次回はもっと高額な投資を勧められ、次第に詐欺のスパイラルにハマっていくケースに陥ってしまいます。詐欺相手が摘発されれば表面的にはそれ以上被害は拡大しませんが、詐欺相手は、足がつかないように、1~2年で別会社に変わってしまうので、トカゲの尻尾切りではないですが、取り締まる事が非常に難しいのが実情です。 怖いのは、一度詐欺にかかってしまうと、ブラックリストならぬ対象者(被害者)リストが存在しているようで、巷では、リスト化された富裕層リストが売買されているという話もあります。 ──実際は、どういった詐欺が多く、どんな方が被害に遭ってしまうのでしょうか? 小林:当事務所にご相談にいらっしゃる男女比は、1:1です。そのなかで、20代から60代まで、あらゆる年齢層が詐欺に遭っているのは、FXや暗号資産やアフィリエイトといった「情報商材」です。海外だから違法にならないという認識がまかり通っている「オンライン・カジノ」は20代が多く、40代50代に多い「国際ロマンス詐欺」は、資産を持っていらっしゃる方がターゲットとなる傾向があります。 また、経営者の方は、常に新しいものを採り入れたいという探究心をお持ちの方が多く、それが仇になってしまい、暗号資産やメタバースに関する詐欺に遭うおそれがあります。
相談後は、兎にも角にも「スピード感」が命!
詐欺案件について依頼する際に、司法書士と弁護士に違いがあることをご存知だろうか? 簡易裁判所で扱える140万円という金額がボーダーラインとなり、被害額が140万円以下の場合は司法書士が扱え、140万円を超える場合は弁護士のみが扱える。 ──万一、被害に遭ってしまった場合。相談から解決までの流れを教えていただけますか? 小林:まず最初に、ご相談者からは、聴き取りをさせていただきます。日付や内容など、覚えていらっしゃる事実関係を詳しく伺います。そして、この時、最も大切なのが「スピード感」です。詐欺会社と、いつ突然連絡が取れなくなってしまうか分からないので、例え回収率が低くなってしまうとしても、一刻も早く交渉に入ります。通常2~3カ月以内に回収し、債務整理の元手に充てるという流れです。 杉山:回収率の平均は50%弱ですが、ケースによって回収可能性や回収率は大きく異なります。名前だけの代表者を立てて、その名義も頻繁に変えるような業者は、連絡がつかず回収自体が不可能なケースがほとんど。一方で、テナントを借りている法人組織だと、返金に応じる可能性が高いです。電子マネーや暗号資産で支払わされた場合は、追跡が難しいのが実情です。 当事務所は、成功報酬のシステムなので、ご相談者から着手金はいただかず、回収出来た場合のみ、回収金額の35%をいただいています。なので、手間がかかったが収益化ゼロという案件も半分近くあり。ご相談者は、詐欺に遭ったうえに着手金もかかってしまうという、ダブルでお金に困る事がないよう、着手金で収益化するのでない考え方が基本にあります。
■詐欺に遭わない7箇条と、楽して儲かる話は疑え ここで、詐欺や消費者金融被害に遭わない行動を7箇条にまとめて整理してみよう。
1. マッチングアプリは、要注意→パートナーでなくカモを探している詐欺者がいるので、SNSでDMや友達申請が届いた場合は、慎重に行動する。
2. 「すぐに簡単にお金が入る」という謳い文句には要注意→誰でも簡単にお金を稼げるものではないが、誰でも簡単にお金を失うもの。だからこそ、甘いささやきには、疑う一考を。
3. 契約前に徹底的にリサーチする→ネット検索で、充分に調べてみて少しでも怪しかったら、すぐにストップする。
4. 信じられない事が起こったら信じるな!→指定口座に送金したら増えて返ってきたり、教えられた競馬の馬券が的中した、などの信じられない出来事には、裏がある場合あり。自分が知らぬうちに振込詐欺の受け子を担がされている可能性も。
5. 「海外サイトなので日本の法律が適用されない」などの説明が出てきたら鵜呑みにしてはいけない→海外のオンライン・カジノを日本から利用すれば犯罪になることを知らない人をターゲットにした詐欺が行われる事もある。
6. 消費者金融の借入を勧められたら、即アウト!→画面共有ソフトを使って、借入申し込みをサポートする業者もあり、偽の申請により借入させられる事で、消費者金融に対して詐欺を働く結果になる件も。また、同日に複数社に申し込みをさせて、本来借入が出来る金額以上を借入れてしまう事にもなってしまう。
7. 個人名義口座への振込や暗号資産での支払いを求められたら断固ストップ!→これらは、足がつかない決算手段なので、詐欺被害に合った場合に回収が難しい。
詐欺に遭わないための心得
──経営者や富裕層が遭いやすい詐欺についての具体例と、遭わないための心得をお願いします。 杉山:「国際ロマンス詐欺」で7000万円の被害に遭われた方がいらっしゃいました。「将来の結婚生活の為に資金を作ろう」と巧みに誘うこの種の詐欺は、被害者の気持ちに情が入り、冷静な判断より情が優ってしまう性質の詐欺なので、7000万円という高額な被害額まで膨れ上がってしまったわけです。 決して自分1人だけで判断してはいけません。何かコトを始める時には、第三者の忠告に耳を傾けて下さい。また、副業詐欺に於いては、「50万円投資したから回収してやる! といったスケベ心」が詐欺額を増やす誘因になってしまいます。「先にお金を支払って儲かる話は基本的に無い」と認識してください。また、本業の仕事以上に、楽して儲かる案件などありません。 取材するなかで、現在社会の縮図が見えてきた。SNS、インフレ、情報過多の時代。「人よりもっといい生活を送りたい」「楽して稼げる方法を得たい」という心の隙間に忍び寄ってくるのが副業詐欺をはじめとした様々な詐欺だ。 YouTuberやアフィリエイターやライバーが楽に稼いでいるといった安易なイメージが形成されているネットを舞台に、「短時間・手軽・高収入」というワードを小出しにしつつ、ビットコインやイーサリアムといった暗号資産を巧みに用いて、足のつきにくい方法で手を変え品を変え忍び寄る。 2023年3月に警視庁が発表した昨年1年間の特殊詐欺被害額は、実に361億4000万円にのぼる。しかしながら、犯人検挙率はわずか1.9%という絶望的な数字からも、詐欺事件における捜査の難しさが指摘されているのも事実。一方、消費者庁では、消費者センターに寄せられた苦情・相談が多発している副業ビジネス事業者の実名を公表して注意喚起を促すアクションも。そんななか、詐欺被害に遭わない最良の方法とは、残念ながら自己防衛しかないのが現状なのである。
Forbes JAPAN 編集部
出典:
そのリスキリング商材、本当に大丈夫? 増加する副業詐欺の手口とは | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)